不倫だけど純愛・妻の本音を聞き出す|別れさせ屋④
依頼人山本さんから事前に伺った奥さん像は
とてもひどく、夫婦生活を続けていくことは困難であろうと
同情心すら芽生えた。
しかし、あくまでも夫である山本さんから見た奥さん像でしかない為、
現場に臨むにあたって先入観は禁物である。
工作員MAMIさんは山本さんの奥さんであるりょうこ氏に接触を複数回行い
信頼関係を築きつつあった。
そんなある時、りょうこ氏が「相談したいことがある。」とMAMIさんに
メールを送ってきたのである。
もちろんMAMIさんは快くOKメールを返信した。
そして約束の日・・・。
りょうこ氏の勤務先近くで待ち合わせした二人は
近くの個室居酒屋に入って行った。
この日りょうこ氏は山本さんに飲み会があるから遅くなりますと
言ってきたそうである。
店内に入って個室に通された二人は、とりあえずの生ビールを飲み
その後はワインや焼酎などをゆっくりと飲んでいた。
りょうこ氏の頬が少し赤くなってきた時、「あの~MAMIさん、私、夫との関係で
悩んでいるんです。」と話してきた。
MAMIさんは話の先を促すように頷いた。
「夫とは付き合って2年、結婚して8年になるんです・・。おかしいと思われてしまうかも
知れないですけど、この人とこのまま年を取っていくって想像ができないんです。
お付き合いしている時は楽しくて、結婚しようって言われた時も嬉しかったんですけど・・。」
「けど?」
「夫のご両親に挨拶に行ったとき、お母様から早く孫を見せてねって言われたんです。
私も子供が好きなのでハイって答えたんですけど、その後にお母様は私の親の事や
兄弟の事を色々と聞いてきたんです。」
ここで頼んでいたおかわりのワインが運ばれてくる。
「私の親は普通のサラリーマンで、特別なことはないんですけど私の弟が
少し障害を持ってるんです。いずれわかる事だと思って、その事を夫のお母様に話したら
明らかに嫌な顔をされたんです。その話をしてから早く孫の顔を見たいって言われなくなったんです。
彼のお父様はあまり頓着されない性格なので、ずっと孫を見たいって言ってますけど・・。」
「このお母さんとは合わないかもと思いながら結婚式の日を迎えました。
その時に夫と夫の母親が話をしているのを聞いてしまったんです。」
「私は反対したからね、泣くのはあなたなんだから。」と母親が彼に言っているの聞こえてきたんです。
「子供が出来て、その子が普通の子じゃなかったらどうするのよ。彼女の弟が・・」と畳み掛ける母親に
夫は「こんな日にやめてくれよ。普通の子じゃないなんて関係ないだろ。
今は医学も発達してるんだから大丈夫だよ。その時になったら考えればいい。」と言ったのである。
夫の母親はブツブツ言いながら、新郎の控え室から出ていきました。
私は涙が止まりませんでした。
「本当にこの家に嫁いでいいのだろうか、もし妊娠して本当に障害を持った子供が出来てしまったら
どうしようとか、色々な事を考えました。」
結婚式は親族一同と友人を両家会わせて80人ほど招待していました。
「皆が祝福してくれるので、笑顔を切らさないように式に臨みました。
式も滞りなく終わり、披露宴が始まりました。
私や夫の友人からスピーチや、余興を見ながら時間が過ぎていきました。
そんな時、私の親族席に座っていた弟がお酒を飲み過ぎて戻してしまったんです。
私の親族席で事情を知っている人ばかりだったので、手際良く片付けたので
他の友人席にはあまり気が付かれずに済みました。
でも彼の母親は露骨に嫌な顔をしていました。
そして・・彼の顔を見ると明らかに不愉快な顔をしていました。
この瞬間から、彼と彼家族に対して私は心を閉ざしてしまったように思います。
結婚してから夫は、私の態度が変わった事を不満に思い、色々な話をしましたが
どうしてもあの時の表情が頭の中から消えなくて受け入れられないんです。
その時の事も夫に話しましたが、そんな顔をする訳がないと認めません。
夫が望むように離婚しようかとも思ったんですけど・・夫に別の女がいることに
気が付いて、ますます夫のことが嫌いになったんです。
それで夫を困らせたいっていう気持ちが膨らんできて離婚を拒んでるんです。
でも最近は家に帰るのが嫌で嫌で、家に近づくと吐き気を催すぐらいになってきたんです。
そんな時にMAMIさんに出会ったていう状況です。この先私はどうすればいいでしょうか?」
と一気に話し終わったりょうこ氏は、誰にも言えなかった悩みなのか
すっきりした表情だった。
MAMIさんは「そんなのりょうこちゃんの大事な時間を無駄にしているだけだよ。
本当は幸せな結婚生活を送って、子供も欲しいって思っている。でも今の旦那さんとの
未来は考えられないって思っているんなら、さっさと別れるべきよ。
私もバツイチだけど離婚する前は色々大変だろうなって思っての、でも終わってみたら
アッサリっていう感じ。私もりょうこちゃんも仕事をバリバリしてるから経済的にも問題ないし・・。
・・でも本当は少しご主人に気持ちがあるから踏み切れないんでしょ?そんな顔しているよ。」
「さすがMAMIさん、私も何やってるんだろう、時間がもったいないって思う時があるの、
でも10年近く一緒に住んでいたから情もあるし・・何か離婚するにしてもきっかけがあればね・・。」
MAMIさんはその言葉を聞いて「じゃあ気分転換に今度合コンでもしようか?
他の人に目を向けてみようっていう気持ちになれるかもしれないよ。」と言ってみた。
「そうかも・・知れませんね。MAMIさんにお任せします。」と答えるりょうこ氏。
それから他の話題に移り、2時間ほど飲んだ。
自宅に帰ったりょうこ氏は鼻歌交じりで上機嫌だったと山本さんが話されていた。
山本さんにりょうこ氏から聞き出した情報を担当員が報告した。
妻が何を考えていたかがわからなかった山本さんは報告を受けて、
「俺が悪かったんだな・・。でももう後戻りはできません。」と呟いた。
そろそろ仕上げに入る事にする。
次回、⑤へ・・続く。