穏便に別れたい~別れさせ屋⑤
依頼人澤田さんはマッチングアプリで知り合った彼女と同棲しているが
家事もせずにずっと家にいる彼女と別れたいと思っていた。
何度も口論をしたが、その度に自傷行為をする彼女にほとほと困っていた。
そんな時に別れさせ屋の存在を知り、当社へのご依頼となったのである。
最初に女性工作員SAYAさんが接触を行い、趣味である漫画の話で仲良くなり
何度か食事をする関係となる。
その後、彼女が好きな漫画に造詣が深い男性工作員NOBUさんの登場により
この案件は急速に発展していったのである。
対象女性理沙氏と工作員NOBUさんは毎日何十通ものLINEのやりとりをしていた。
最初は好きな漫画についての話が多かったが、数日後にはNOBUさんは彼女さんとかいないんですか?
とNOBUさんのプライベートが気になるような内容のメッセージが多くなっていた。
もちろんNOBUさんは彼女なんかずいぶんいないよと返信するとニコヤカなスタンプが
返ってきた。
そろそろ仕上げと思っていた担当員は依頼人澤田さんと打ち合わせを行い、理沙氏とNOBUさんが
一緒に食事をしている際に澤田さんが接触を行い別れ話をするというご要望に沿った流れに決まった。
そしてNOBUさんと理沙氏が食事に行く当日・・・。
夕方18時に漫画喫茶付近のコンビニ前で待ち合わせ。
NOBUさんは先にコンビニに到着してコンビニ内で漫画を立ち読みしていた。
18時ちょうどに理沙氏が到着。
いつも服装には無頓着な理沙であるが、この日はひざ丈のスカートにニットを合わせた
おしゃれ着で登場。
コンビニで立ち読みをしているNOBUさんに気が付いた理沙氏は、気が付かれないように
コンビニに入店。そっとNOBUさんの背後に回り「わっ!」と驚かせた。
NOBUさんはビクッとしながら「ひゃあ。」と声をあげて後ろを振り返ったら
理沙氏が大笑いしていた。
二人は笑いながらコンビニを出て、予約してあった居酒屋に入っていった。
乾杯をした後に二人はスマートフォンを開き、最近のお勧め漫画を語り合った。
また理沙氏が務めている漫画喫茶から社員にならないかと言われているという話も
出てきていた。
理沙氏は漫画が好きなので社員になろうかなって思ってると話すと
NOBUさんは「うん、おれも賛成!絶対行くし。」と賛同すると
理沙氏はとても嬉しそうだった。
1時間ほど経過。二人は向かい合わせに座っていたが、お互いに視力が良くないので
理沙氏はNOBUさんの隣に移動してお互いのスマートフォンが見えるようにした。
NOBUさんは漫画のことを熱く語っているのを、見つめる理沙氏は聞き上手で
尊敬のまなざしでNOBUさんを見ていた。
ここでNOBUさんが「理沙さんは彼氏がいるんでしたっけ?」と聞くと
理沙氏は少し沈黙した後、「・・・いますけど、関係は良くないですね。もういいかなって・・。」
と言葉を濁す。
「そうですか、変なことを聞いちゃってすみません。」とNOBUさんが恐縮すると
「いえいえ、私もNOBUさんのことが気になってるんで・・聞いてくれてうれしかったです。」
と答える理沙氏。
そこから隣同士でイチャイチャする二人。
お店を出る時には、二人の手はガッチリと恋人結びになっていた。
この後、どうしようかという話をしている時に男性が近寄ってきた。
「おい、理沙。」と無機質な声で怒りを表現する依頼人澤田さん。
理沙氏は「あっ!」と言った後、「あれが彼氏・・。NOBUさん私、彼との関係を話し合ってくるから
今日は帰るね。」と小声で手早くNOBUさんに伝えると、澤田さんの方に歩いていく理沙氏。
NOBUさんはその場で二人を見送った。
その後、澤田さんは理沙氏から「好きな人ができたから家を出ていく。」と逆にふられるような
話をされたが、澤田さんからしても願ったり叶ったりなので、「わかった。」とだけ答えて
自宅に帰った。
澤田さんの家にあった理沙氏の荷物は一旦宅配便で実家に送り、次の日には理沙氏は澤田さんの
家から出ていった。
澤田さんは合鍵を受け取り、理沙氏が家を出るのを見送った。
理沙氏は実家に帰りNOBUさんに「彼との同棲解消してきました!」と嬉しそうに連絡してきた。
この時、理沙氏は漫画喫茶の社員になれば社員寮に入れることを知っていたので、スムーズに
同棲解消ができたのであった。
一方澤田さんは理沙氏が戻ってこないように、住んでいたマンションを解約して引っ越しを完了していた。
もちろんLINEはブロックして電話も着信拒否にしていた。
また彼女が勤務している漫画喫茶の系列店の近くには行かないように気を付けた。
理沙氏と工作員NOBUさんは、別れさせ屋工作が終了した後もアフターフォローとして
3か月ほど交際を続けて、理沙氏の転勤を機に友達関係に戻ることに成功した。
澤田さんのこれからの幸せを願う。
穏便に別れたい~別れさせ屋・・終わり。